2018年03月22日

‘採用' 自社の魅力を伝えきれていないのでは

 A社はコンスタントに売上を上げていましたから、経営自体は順調といっていい水準にありました。しかし、A社長には年間を通していつも一つの悩みが頭の片隅にあったそうです。それは、新卒の採用が思うようにいかないということでした。
 A社は機械メーカーですから、主な採用枠は開発設計職となります。募集する新卒者に求める能力がかなり限定される上、地方の中小企業ということが採用活動に不利に働くようで、6名の採用予定が、2~3名を確保するのがせいぜいという状況が続いていました。
 
A社が採用活動をどのように行っていたかというと、まず学生向けの「就職支援サイト」に紹介文の掲載を始めるのが最初です。
 同時に就職サイトに登録した学生に対し、A社に興味をもってもらうことを目的とした「メールDM」を送信する作業が続きます。
 そして、メールを返信してきた学生に対して、会社説明会を開催し、最終的にエントリーしてきた学生と面接を行い、通過した学生に内定を出すという流れです。
 一般的な採用活動の手順を踏んではいますが、それで結局、入社してくるのは2~3名という結果だったわけです。

 そうした状況を憂いつつ、商談のために訪れた会社からの帰り際、受付に置いてあった会社案内がA社長の目に留まり、何気なくそれを手に取ったそうです。
 帰りの車中、パラパラと冊子をめくっていくにつれてA社長の表情が徐々にこわばって
いきます。
 最初のページは社長のあいさつ。そこには「多様化するマーケットをリードする……」とどこかで聞いたような、それでいて何も伝わってこないメッセージが付されています。
 次のページをめくってみると、宇宙空間をイメージした写真を背景にして、組織図が描かれています。その後は、これまでに成し遂げてきた会社の業績が商品と一緒に延々と羅列されているといった具合です。
 何の気なしに手に取った会社案内ではありましたが、これをめくり終えると、A社長は呆気に取られたそうです。というのも、やっていることは違う会社なのに、A社の会社案内と基本的なつくりがまるっきり一緒だったからです。

 地方の中小企業、限定された採用条件、こんなことを新卒獲得が思うようにいかない理由と考えていましたが、「自社らしさがちっとも学生に伝わっていないのが本当の原因だったのではないか」とA社長が考えるようになったのは、このことがきっかけでした。
 また、就職サイトに掲載しているA社の紹介文も会社案内がベースになっていましたから、その効果は限定的であっただろうとの思いも日増しに強くなっていきます。
 そこでA社長は次からは、「本当のA社らしさをアピール」することを主眼に置いてやってみようと決心したというのです。

 それでA社長が正面から取り組まざるを得なかったのは、本当のA社らしさとは何なのか、という問いに答えることでした。これはA社長にとって、原点に返ることでもあったわけです。
「なぜ自分はこの仕事を始めたのか」「モノづくりを通して人の役に立ちたいからだ」「そのためにどんな人材が欲しいのか」「一緒にこだわりをもってモノづくりをしてくれる人だ」

 
このように考えると、これまでは曖昧に「良い人材」を求めていたことに気づいたといいます。求める人材像が曖昧だっただけに、アピールポイントも曖昧な万人受けするものになっていたのでしょう。結果、それは誰の心にも届いていなかったのです。

 そうしてA社長が最初に取り組んだのは、会社案内のパンフレットを一新することでした。いちばん大きな変更点は、これまでのような成功業績の羅列をやめて、逆に製品開発の失敗事例を社員の目線から語った構成にしたという点でした。
 すなわち、ある製品を開発する過程でどのような失敗があったのか、そのときに社員はどのように考えどう行動したのか、そして社員はそうした体験を通じてどのような教訓を得て、次の仕事につなげていったのか、ということが社員自身の言葉で語られたわけです。
 もちろん、就職サイトへの掲載の仕方もこうした方針に沿って変更されました。失敗を含めてのモノづくりの楽しさ、そして苦労してつくった製品に対して顧客から感謝の言葉をもらったときの何物にも代えられない気持ちへの言及です。

 さらに、会社説明会も本社でやることにしました。交通費を負担して交通の便の悪い場所まで来てもらうのは、やはりA社のモノづくりの現場を実際に見てもらいたいからでした。
 他人から見たらどうでもいいようなことに、こだわりをもってああでもないこうでもないと真剣に議論している社員の姿がA社長には頼もしかったし、そうした姿に共感してくれる人に入社してほしいとA社長は思ったのです。

 また、会社説明会についても、これまでとはやり方を変えてみたそうです。長々と話していた会社概要を大幅にカットして、製造現場の人間が自分で用意した原稿で、モノづくりの楽しさ、「職人」としてのプライドを訴える形式にしたのです。確かにそれはつたないいスピーチであったかも知れませんが、自社らしさは十分に伝わったというのがA社長の実感でした。
 このような一連の改革を通して、A社の採用は5人を確保することができたそうです。
 新たな人材をほぼ採用予定に近い人数を獲得できたことは喜ばしく、その結果に満足していたのですが、同時にA社長にとって意義深かったのは、「そもそも私はなぜこの仕事をしているのか。そしてどんな活動を通して対価を得ているのか」と問い直す場所に立ち戻れたことだそうです。そのことで、採用を考えることは、会社の根本を振り返りながら、将来を考えるに等しいとA社長は考えるようになったといいます。

 そう認識すると、これまで採用にかかるお金は「コスト」であるとどこかで思っていたのが、はっきりと「投資」と位置づけられるようになったともA社長は言います。

 今後も厳しい採用状況が見込まれる中、採用活動をするにあたって具体的に一度「自社らしさ」を見つめ直してみてはいかがでしょうか。



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