2018年11月20日

逆ピラミッドで考えてみる

 企業が社員に対して行う代表的な教育法のひとつにOJTがあります。
 上司や先輩が部下や後輩に対し、具体的な仕事を通じて業務上必要な知識・技術・技能・態度などを指導し、習得させる教育手法です。
 日本企業においては、特に新入社員教育で一定期間の集合研修を経てOJTへ導入する形式を採ることが多いようです。
 新卒採用者に対しては、実に多くの企業がOJTを実施しています。
 これはOJTの効果が高いことの証ですが、一方ではOJTにも課題・限界があるということを認識しておくことが必要かと思われます。

 A社はコンピュータに強い20代の若者を3人新たに採用しました。
 A社はこれまで、新入社員は先輩に付いて、挨拶の仕方、電話でのやり取りといったビジネスの初歩から学んでいきました。得意先に同行し、先輩社員が顧客とどんな会話を交わし、それをどうやって仕事につなげていくかを学んだものでした。
 いわゆる「OJT(オン・ザ・ジョブトレーニング)」です。このやり方に対して、新人3人は強い拒否反応を示したそうです。
 A社は家電の販売店からスタートしています。車で回れる地域の常連客を定期的に訪れ、何か入り用でないかを訊いて回るのが重要な仕事の一つでした。


 先代の時代はこれでうまくいっていました。地域住民から信頼され、売上は右肩上がり。「時代」もあったのかもしれません。要は、「仕事は上司・先輩から学ぶもの」という考え方です。
 ですから、A社の組織はピラミッド型になっています。仕事の指示は上から下に伝えるもので、その逆はあり得ません。こうしたA社の社員教育のやり方に拒否反応を示し、異を唱えたのが新入社員の3人でした。
 彼らも入社数カ月間は、A社の伝統に黙って従っていたようです。しかしある日、新人のBさんが3人の意見として、上司・先輩社員を前にして営業方法の改善策を提案したというのです。
 要は、「御用聞きのやり方だけではコンピュータは売れない」というものでした。曰く、自社HPで取扱パソコンおよび関連機器を紹介しているが、それがお粗末。
 一応HPから注文できるようにはなっているが、カード決済に対応していない。すべての機種を網羅できていない。また、取付、ネット開設までのサービスは存在するが、アフターサービスがない。それをするだけの技術・知識がA社にはない。得意先を回った際のパソコンに関する営業トークも、脇で聞いていると自分がよく分からないまま勧めているようだなどなど。

 だから、自分たちの知識と技術をもっと活用してほしい、というのが彼らの言い分でした。いちいち、ごもっともですが、それを「はい、そうですか」と受け入れるだけの度量はA社にはなかったようです。新人Bさんの発言に対して、直属の上司は憤慨しました。
上司の言い分はこうです。「我が社には長い歴史がある。多くの先輩たちが培ってきたものだ。私たちはそのやり方を踏襲して今がある。
 それを昨日今日入ってきた新人が意見するとは何事か。余計なことを考える暇があったら、先輩の仕事をひとつでも多く学べ」

 結局、A社で彼らの提案が実行に移されることはありませんでした。新入社員の3人は、その後半年までの間にすべて辞めていったそうです。
 以降、A社のパソコン販売台数は長い間伸びることはありませんでした。上から下のピラミッド型の組織を頑なに維持し、旧来のOJTにこだわり過ぎたということもあったのかもしれません。
 A社長はこれまでやってきたOJTのすべてを否定したわけではありません。
 ただ、自分たちのやり方が時代にそぐわないものになりつつあるということも自覚せざるを得なかったということです。

 日本の会社のほとんどの組織形態がピラミッド型と言っていいかと思います。社長をトップに専務、部長が従い、そして課長、係長、平社員と続きます。
 上の者が経営判断を下し、下の者がそれぞれに行動に移し、成果を出す。指令系統がはっきりしていないと組織は混乱するばかりですから、これは当然の成り行きでしょう。
そして、同じ構図が社内の教育制度にも適用されています。
 上から下へ。A社のOJTがその典型と言えるでしょう。上司・先輩が部下・後輩へ自分の知識と経験を授けながら、実地でビジネスを教えていくやり方です。

 OJTのすべてを否定することは、A社長の言うように、もちろんできません。
 しかし、「上から下へ」という構図が絶対視され、部下の貴重な意見が、ただ「部下」だからという理由だけで却下されてしまうのはあまりに勿体ないと思うのです。


 OJTの限界は、教わることが上司・先輩の経験・知識を決して超えられないということです。また、上司・先輩はOJTを通して、部下・後輩を自分のアシスタントとして教育してしまう傾向も見られます。ピラミッド型組織の弊害と言えます。
 部下・後輩に活躍してもらうことが教育の本来の目的のはずです。ですから、時に組織を逆ピラミッドにひっくり返してみるなど柔軟性をもたせることも、「人材を活かす」という意味で会社の発展に寄与するのではないでしょうか。 




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